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デジタル空間をめぐる対談:メタバース、拡張現実

デジタル空間をめぐる対談:メタバース、拡張現実

ゼレンホールディングスは去る2023年11月15日、デジタル空間経済連盟に加入しました。これを機にゼレンホールディングス代表取締役社長グループCEOである和田千弘と、シニアアドバイザーで早稲田大学ビジネススクール客員教授の及川直彦が、デジタル空間における経済活動について、今見えている風景、そしてこれからのアプローチの可能性について語り合いました。

デジタル空間の現在地

和田 デジタル空間と一言でいっても、プラットフォーム、決済、データの活用といったさまざまな側面がありますが、今日は特に、仮想空間技術によってもたらされたさまざまな可能性を話題にしてみます。いまやデジタル空間は人の生きる場所と地続きです。アナログ空間の代替としてのみならず拡張として捉えることができますね。仮想空間技術によって可能になったメタバースはその一つです。
及川 「メタバース」というと、ChatGPTなど大規模言語モデルの話題の中でもう過去のものになったように感じる方も多いでしょうが、こういうときはガートナーが提唱している「ハイプサイクル」を参考にできます。テクノロジーは「黎明期」、注目を集める「過度な期待を担うピーク期」、それから一旦関心が低くなる「幻滅期」を経て現実的な事例が生まれる「啓発期」、最後に活用が受け入れられる「安定期」に移行するという考え方で、メタバースに限らず、我々が今目にしているテクノロジーの多くはこのプロセスを辿ると考えられています。
和田 ガートナーの発表したテクノロジーのハイプサイクル2023を見ると、生成AIなどがまさに「過度な期待」のピークにある一方、メタバースは今、幻滅期の底にありますね。
及川 幻滅期を乗り越えたテクノロジーだけが、実際にビジネスとして生き残り人々の生活を変えていくわけです。私はビジネススクールの授業では学生に、「幻滅期」を過ぎたあたりの技術が勝負どころと言っています。
和田 メタバースもまた、一過性の熱狂の先の、本当に価値のある試みが積み重なっていく時期に来ていると思います。

ゼレンホールディングス 代表取締役社長
グループCEO 和田千弘

企業における活用: 実用領域

和田 実用的な領域においては、今日の製造工程をデジタル三次元空間上で再現して、それを分析したり人間と共有したりすることにより、効率化の機会を特定することが可能になると考えられます。テクノロジーの普及によってより低価格かつ高い精度で実現できるようになるでしょう。
及川 アイディアとして存在したものの、十分に実現できなかったことが実現できる状況が揃いつつあるといえますね。
和田 そうです。私の経験をお話すると、すかいらーく時代に概念実証としてガストのキッチンのマニュアルをデジタル三次元で作成したことがありました。キッチンは身体の動かし方に慣れると作業が何倍も早くなります。当時はまだ価格が高かったのですが、安くなることでこうした取り組みは普及しやすくなります。
 また、別の業界で、店頭オペレーションをシミュレートする取り組みをお手伝いしたこともあります。ただ当時はまだインターフェースに課題が多く、組織の中でも若い人しか触ってみようとしないということが起きたりもしました。
及川 見渡すと、他にもBMWが製造工場をデジタル三次元空間上で再現して(=デジタルツイン)、製造工程を見直し、人とロボットの連携を再設計し、プロセスを効率化することに取り組んでいるという事例や、日立グループが原子力発電所の作業員をメタバースでトレーニングしているという事例 (「日経ビジネス」電子版 2023年3月15日)など、興味深い取り組みが色々あります。和田さんは他にどのような可能性を考えていますか?
和田 たとえば、日本の製造業から失われている「匠の技」を伝承するために有効なのではと思います。医療の世界では、医師の手術のトレーニングにおいてメタバースが活用されはじめています。個人が経験の中で蓄積した技術の継承は従来、生身の人対人のアナログな情報伝達がなければ実現できないものだと考えられてきました。ここにも可能性があるのではないでしょうか。このテーマではAIの活用も考えられていますし、組み合わせていくことが可能でしょう。

企業における活用: エンタテインメント領域

及川 企業における活用は、ざっくりエンタテインメント領域と実用領域の2つに分けられると思います。三次元表現を活用したより没入しやすい体験を一般的な生活者に向けて提供する新たな娯楽的な領域と、三次元表現を活用したよりきめ細かでわかりやすいシミュレーションやトレーニングを必要とする人に提供する実用的な領域です。
和田 デバイスの普及といった課題があることから、仮想現実 (VR) や拡張現実 (AR) といった仮想空間技術は、ゲームの領域で先行しています。eスポーツは、海外ではすでにプロスポーツの一領域として確立していますね。スポンサーとなる企業があり、プレイする人もいれば観戦する人もいるわけです。一部の先鋭的なプレーヤーだけが享受するものから、より多くの人が楽しむものに広がっています。
及川 エンタテイメントにおける「没入感」への期待は高まる一方ですが、そういえばごく最近、ポケモンGOのアプリにハプティック (触感設定) が追加されました。幅広いユーザーがこうした拡張を体験していくことになる例ですね。
和田 また、一般の生活者にリーチするという意味では、エンタテインメント的な要素の中で先端技術をいち早く活用していくことによって、ブランドの先進性イメージの活性なども期待できます。
及川 少し前の例ですが、ファーストリテイリングが、ブログが一般に普及した2007年に「UNIQLOCK」というブログパーツを開発して先進的な生活者から注目されたということがありました。この取り組みが世界各国の広告のクリエイターたちにも注目され、「いつか一緒に仕事をしたいクールな会社」としてユニクロのブランドを想起するようになり、ファーストリテイリングが一流のクリエイターと仕事をしやすくなったという事例です。

ゼレンホールディングス シニアアドバイザー
早稲田大学ビジネススクール客員教授 及川直彦

ログ分析の重要性

和田 そして、メタバースで見逃されがちなのがログ分析です。顧客を知るためのアプローチの精度を大きく高める可能性を持っています。メタバース上での利用者の行動のログをトラックできるので、ユーザーが何をしようとして、どこで間違え、どこで迷っているかなど特定して改善機会を特定しやすくなります。
及川 ゼレングループのリブゲートも、メタバース領域のログ分析に注目し、取り組みを強化しています。
和田 そうなると、データ分析において、メタバースのデータと顧客や物流の既存のデータとの連携も重要になってきますね。
及川 物流データとの連携だと実用領域、顧客データとの連携だと娯楽領域で、より活用機会がありそうです。

デジタル空間のこれから

和田 デジタル空間とアナログ空間は地続きであればこそ、経済活動の場としてのデジタル空間はむしろ今後、人間的な経験の場として求められていくと考えています。人間の身体性や感覚の価値があらためて問われる、と考えています。
及川 伊藤穰一のメタバース論(『テクノロジーが予測する未来 Web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』)を踏まえると、これまで無自覚に「マジョリティの感じ方」を踏襲してきた経験世界が再構築されることによって、人の意志と主体性がこれまで以上に重要視されるということかもしれません。
和田 人々の感じ方や行動、許容範囲は変化しています。それこそSNSが登場したころは、日本人はシャイだから発言しないなどと言われていましたが、実際にはそこで新たに声を得た人が多く出てきました。アバターを人のアイデンティティとして感じることにも違和感がなくなっています。
及川 テクノロジーへの人々の期待には波があり、流行り廃りということもありますが、足元では不可逆的に変化が進んでいますね。
和田 ビジネスにおいては、急激に進んでいる技術の革新と、背後で起きている緩慢で不可逆的な変化、どちらも見過ごさないようにしながら、変革することにアプローチしていくということが必要なのだと思います。